サンキューファインホース夢プロジェクト(steedプロジェクト)

steedについて知っていただきたいことがあります。

 現在、わたしたちはsteedブランドとして調教用ゼッケンを再利用してバッグをデザイン・縫製・販売をしていますが、「steed」はただのブランド名でなく、プロジェクト(事業)名となります。                               

ここで私たちsteedについて、少しお話ししたいと思います。

サンキューファインホース夢プロジェクト(steedプロジェクト)の事業は、2009(平成21)年にはじまりました。

 この年の2月ごろ、「滋賀県社会就労事業振興センター」(以下「振興センター」という)が、全県の会員事業所(障害福祉サービス事業所など)すべてに、「JRA調教ゼッケンを再利用した商品募集」を呼びかけたところ、びわこみみの里ともう一か所の事業所から応募があり、JRA関係者等の出席のもと試作商品のプレゼンテ―ションが行われました。

 

 みみの里からは、ゼッケンの形や数字をそのまま生かしたシンプルなおしゃれバッグを提案しました。(「リットー」と名づけていたトートバッグの原型)

 専門家の応援を得たシンプルなデザイン、可能な限り手のかからない工程、軽便な工業用ミシンは使うものの直線縫いの多い作業などなど、設備備品などの条件や作業者の縫製キャリアにも配慮したもので、こうした考え方は以後の商品開発や事業展開の基本的視点ともなっています。

 みみの里の提案が採用され、さらに、振興センターとみみの里でさまざまな条件等を詰めていきました。

 その後、ゼッケンの洗濯、テープはがし、裁断、縫製などのできる(と思われる)事業所に声をかけ、「第1回廃棄ゼッケン商品開発プロジェクト会議」=「第1回サンキューファインホース夢プロジェクト会議(のちに略称して「夢プロ会議」あるいは「steedプロジェクト会議」)が開かれました。2009(平成21)年4月24日のことです。

 当初の参加メンバーは、「振興センター」「びわこみみの里」「若竹作業所」「大きな木」「いしづみ」(steedのロゴやショップカード作成)などの県内の作業所です。

 当初1~2回の会議では、ブランド名をsteedとすること、いしづみからの提案によるロゴの決定、事務局をみみの里が担うこと、ネット上の代表をみみの里所長(当時)の中村正にすることなどを決めています。(現在もsteed代表は中村正。)

 また、事業所ごとの作業分担の決定や商品開発についても議論されました。

(当初の担当)

  • 若竹作業所:ゼッケン保管、洗濯、テープはがし
  • おおきな木:   同上
  • いしづみ :ロゴデザイン、ショップカード作成、チラシ作製
  • みみの里 :ゼッケン裁断、縫製、検品、包装、発送、ネット管理など

 縫製のための工業用ミシンは、他の作業所や廃業した縫製工場などから提供してもらったり、steedとして整備してきました。

 初期の製品は、トートバッグ「リットー」、ショルダーバッグ「パドック」、ショルダーバッグ「ハロン」、ポーチ「ジョッキー」、栗東のシルバー団体が作った竹炭を利用した「消臭ぶくろ」などです。

 値段的に高いのでは、という声も無かった訳ではないですが、世界に二つとない商材の「特別な価値」をきわめて重視し、福祉事業だからと言って「媚びない」「へつらわない」という姿勢を貫きました。

 ネット中心の販売方法は、新聞やテレビで商品紹介があるとよく売れますが、ふだんコンスタントに売れているという状況ではありませんでした。

 ただ、マスメディアからたびたび取材を受け(新聞社、通信社、テレビ局など)、製作にかかわるスタッフ(みみの里では「利用者」のこと)は、取材慣れをし、自らの言葉で売り込みするなどの変化も見られました。

 自分たちのことを取り上げた新聞紙面や映像を見て誇りや自信を膨らませることにもなりました。

共同通信の配信で大ブレーク

 なかでも、メディアのすごさを思い知らされたのは、2010年2月に、「共同通信」で全国発信された時です。

 共同通信の記者が取材を終わって、「みみの里の電話番号は知らせないようにします。電話が殺到してパンクする心配がありますので。」と言ったのを、半信半疑で聞いていたが、どうもその配慮は正解だったようで、ネット上に問い合わせや注文が殺到することになったのです。

 ちなみに、その時steedの記事が掲載された新聞は、われわれがつかんだだけでも、つぎのように多数にのぼります。

 スポニチ 長崎 千葉 西日本 日経ネット 中日 日経ネット関西 河北 山梨日々 中日スポーツ 東奥日報 福井 神戸 北國 四国 福島民報 静岡 下野 徳島 岩手日報 山陽 北日本 山陰中央 聖教 (22紙)

 その後も、産経、Zテレビ、NHK大津放送局などから取材がつづきました。

 現在でも定期的にテレビ取材や地元の情報誌に取り上げられ、最近ではSNSのXでの拡散でコンスタントにファンに知られるようになり、注文数も増えています。

 マスメディアに話題を提供し、その力を借りて(聴覚)障害者理解を広げ、ひいては販路拡大にもつなげるという手法は、今後も追求したいと考えています。

カバンメーカーとのコラボ

 初期の製品が一定浸透したところで、買っていただいた方や関係者から、新しい製品を求める声が聞かれるようになり、形状、大きさ、クオリティの高さ等について検討した結果、専門のカバンメーカーとコラボした新製品を世に送り出すことになった。2011年9月には新製品が出来上がり、その後ネット上にもアップされていきました。

 上質の牛革をふんだんに使った「TOTE(L)」や「SHOULDER(L)」や「RUCK」がそれです。

 さらに、若者向けや女性向けの製品を求める声も出されて、小ぶりの「TOTE(M)」「TOTE(S)」「SHOULDER(M)」「SHOULDER(S)」(それぞれ黒と緑の色違い)が開発されました。

現在もコラボは続いており、質が高いとお声をいただくsteedの強力な助っ人となっています。

 

さてこれから

このように、サンキューファインホース夢プロジェクトの今日までの歩みをかいつまんで見てきた訳ですが、今後の展望はどうでしょうか。

まず、再利用できるゼッケンがどれだけ確保できるかという問題があります。

廃棄されるゼッケンは、毎年、栗東で約2,000枚、美浦で約4,000枚と言われていますが、汚れや破損の目立つものが多く、2014年に栗東で選別しながら受け取れたのは3色合わせて約350枚というレベルです。(17.5%)。

2023年度は、栗東で約6,000枚のゼッケンの中から受け取れたのは、約1,100枚ほどでした。(18.3%)。使用済みゼッケンの中からバッグに使用できる程度のゼッケンは、10年前とほぼ変わりません。

量的には、この事業はこれ以上広げることができないということでもあります。仮にどんなに需要が増えても、ゼッケンの数に限りがあるということです。この限界をきちんと見ておく必要があります。

また新しいアイテムの開発も重要になります。

毎年現在のような販売数なら、市場が飽和状態になることはありえず、新しい製品が次々と開発できればもちろん問題はないが、新しい製品が出来なくても、古いアイテムのものを含めて、どう売りつづけるかを考えていくことが必要になってきます。

ただ、同じものを作りつづけることに対しては、職人(スタッフ=利用者)のモチベーションがもつかどうかという問題があり、技術継承の取り組みも行われているが、このあたりが宿題となります。

最後に、このsteedプロジェクトで、障害者就労についてsteed購入者の方をはじめ一般の方々にも理解が進むことを願い、またsteedを支えつづけてくれた職人(利用者)のみなさんの頑張り心から感謝の気持ちを持ってこの事業を続けていきたいと強く思っています。

                               steed staff一同

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